母は言った。「私ね、お父さんと別れるわ。お父さんには悪いけどね」

母から、我が家の年末年始の予定を尋ねる電話があった。用事が済んだ後、母がぼそっと言った。「私ねぇ、お父さんと別れるわ。お父さんには悪いけどね・・・」。


えええ! 何をまた唐突に!?

私の父は穏やかな人で、家族にも声を荒げて物を言うようなことはない。 母がこんなに伸びやかに楽しげに暮らしているのも、父あってのことだ・・・と母も私達家族もそう思っている。 私が物心ついてからの記憶を辿っても、父は いつでも私達の一番の味方だった。


例えば・・・私が小学生の頃、当時の母は 今以上に仕事が忙しく 私の参観日にも来られないほどであった。「娘の学校行事があるから」という理由で仕事を休むなんてことは まだ難しかった30年前の話である。

ある日、母はクラスのお母さんに言われたそうだ。「そんなにお忙しくていらして、ご家庭は大丈夫ですか?」。 母はその言葉を聞いてしょんぼりした。 すると父が言った。「君が仕事をする上で、影響があるのは家族だろ? でも、家族の誰も、何も困ったことはないよね? それどころか、(夫である) 僕や (娘の) 夕暮れが応援してるのだから、他人様が『ご家庭は大丈夫ですか?』って嫌みを言っても 気にしない気にしない」。

父は強くて優しい。

 

こんな父と何十年も連れ添ってきたのに、別れるって、どういうこと?? はい??

よくよく聞いてみると、母は 朝ドラの主人公(喜美子)の恋人(十代田八郎さん)の最近の台詞に胸キュン(死語)しているらしい。 確かに、喜美子と八郎さんは ほのぼのとする恋人同士だ。軽妙で楽しげな会話の中に、お互いを尊重し大切に思いながら 人生を共に生きていこうという姿勢が伝わってくる。

今朝の録画を見ていて、母は遂に思ったそうだ。「この八郎さんにプロポーズされたら、私、お父さんと別れるわ。お父さんには悪いけどね」。

 

そういえば、大河ドラマおんな城主 直虎」の時も言っていた。「(高橋一生さん演じる) 小野政次がプロポーズしてくれたら、私、お父さんと別れるわ・・・。お父さんのことは好きだけどね」と。

もっと遡って、朝ドラ「朝がきた」の (ディーン フジオカさん演じる)五代さんの時も言っていた。「私ね、五代さんがプロポーズしてくれたら、お父さんと別れるわ。お父さんには感謝してるけどね」。

 

母の言っていることは分からなくもない。脚本家が考え抜いた台詞を登場人物に語らせているのだし、それを演技力のある俳優さんが演じるのだから、「登場人物」にメロメロ (死語) になるのも仕方がないかも。(この「役者さん」の大ファンというのではなく、あくまでも「役柄の人物」が大好きらしい)。

 

だからといって、12月も半ばのこの クソ (失礼 ! ) 忙しい時期に、本題である年末年始の予定よりも、 2 倍の時間をかけて 娘に熱く語ります?「もし、この人にプロポーズされたら、私・・・」って。

「お客様の中にどなたか、この母につける薬をお持ちの方はいらっしゃいませんか?」

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