バスに乗る。優しさも一緒に乗る

「朝、いつものバスが満員で、私が待っているのにドアも開かずに素通りしたよ。こんなこと初めてだった」と、夕方帰宅した娘 (小焼け) が言う。

娘の乗るバスは、始発停留所が 新幹線の停まる駅だ。そこから電車も出ているので、通勤の人達は主に電車を使っている。同じ方面に行くバスに乗るのは、途中に学校がある児童・生徒達。それなのに、どういう訳か今日はおとなもたくさん乗っていて、娘の待つバス停に到着する時には、既にすし詰め状態であったらしい。

 

「で、どうしたの?」と尋ねると、「15 分後に別の路線のバスが来るし、降りるバス停は学校からは遠くなるけど、走っていけば間に合う、と思って待つことにした」と答える。ところが、次のバスも満員でドアが開かずに通り過ぎて行ったとのこと。

話を聞きながら、私は ハラハラする。 「あらら、それで?」 「そのまた次の、別の路線のバスを待つしかなかったよ。事情を言えば、遅刻にならないっしょ」。 落ち着いているんだか、のんきなんだか…。

そういえば、小学校に入学する時に、バスが来ないケースを想定して親子でシミュレーションしたことがあった。万一の時の為に、いろんな路線の時刻表を持っている。それらを見ながら、「次は○○番のバス」と予定を立てたのだろう。「お母さん…」と不安そうな小学 1 年生の時もあったのに、いつの間にか頼もしくなっている。

 

バス停のベンチに座って待っていると、いつものバスで一緒になる ( もっと前の停留所から乗ってくる ) 同じ学年の Y ちゃんが、お母さんの運転する車で通りかかり、「小焼けちゃ~ん、乗って!」と声をかけてくれたとのこと。( Yちゃんも乗れなかったのねぇ)。

「乗せてもらって助かったけど、Y ちゃんに嘆かれちゃったよ」と小焼けがぼやく。理由を聞くと、Y ちゃんのお母さんが「まあ! 小焼けちゃんはバスを待つ間も ちゃんと勉強してる~」と言われ、とばっちりが Y ちゃんに来たらしい。「小焼けちゃんったら~、いつもしたことないのに 今日に限って なんで、バス停で勉強なんかしてるん?」と Y ちゃんが嘆く。

「えー! バスを待つ間も勉強してたの?」と、今度は私が驚く。「今日だけは待ち時間が長くなりそうだったもん。社会の暗記でもしてようかと…」と小焼け。 私の産んだ子って、そんな子だったっけ? ああ、びっくり。

 
今日は特別だったが、娘の乗るバスは、ほぼ同じ人達が一緒になる。小学生も中学生も高校生もいるが、暗黙の了解で、学年の下の子が乗ってくると席を譲ったり、座っている子は 立っている子の荷物を自分の膝に乗せてあげたり…ということが自然にできる。

小焼けも小学低学年の頃には、年上の人達に親切にしてもらい、そういう「譲り合いの循環」を学んだらしい。 (ありがたいことです…小焼けの母より)

 

★小学生の時から バス停で一緒だった「おばちゃん」は、明るい人で、待っている間に いろいろ話しかけてくださった。小焼けが寝坊して猛ダッシュでバス停めがけて走ってくる姿が見えると、バスの運転手さんにちょっと待ってくれるように頼んでくれたこともあった。 先月、「私、パートをやめるからね。もう小焼けちゃんにも会えなくなるから、おばちゃん寂しいわ」と言われたとのこと。 (お世話になりました…小焼けの母より)

★途中から乗ってくる小学生の男の子は運転手さんの後ろの席が大好き。その席に誰かが座っていると、最初は「う~」という低い声をあげていた。いつも乗り合わせている内に、みんなそのことに気付き、その子が乗ってくると、彼の「 お気に入りの席」に座っていた人は誰もが 当然のように立ち上がり、席を譲る。

★満員で 娘が乗れなかった今日。 同じ中学 (上級生) の男の子が ぎゅうぎゅう詰めの車内から、顔をバス停の方に向けていた。小焼けと目が合ったが、ドアが開かずに通過するのが分かると、「あー!」と驚いたような、「乗れないのか…」という気の毒そうな顔をした。小焼けには、その上級生が心配してくれている感じがして、ちょっと嬉しかったという。

 

こうして、いつも同じバスに乗る人達。 ひとりひとりの名前は知らず、同じ学校とか、どこそこの高校生ということしかわからなくても、ひとときを共有する仲間として、優しさも一緒に乗っている。            

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