ひ、ひゃくまんえん! ( 2019年版 )

自分の記事に#タグを付けると、何か嬉しいことが起こるようです。(今頃 その話題? 汗)

1.《執筆コース》は私には敷居が高いので、2.《お手軽コース》にします。

過去記事にも付けられるとのことで、昨年のを引っ張り出して#を付けてみます。

 

早いもので、あのドタバタからもう1年経ちました。家族をびっくりさせることが大好きな母の楽しみを奪っては可哀相なので、今年も応募したのかどうかを まだ尋ねずにいます。(今年の発表は11月中旬らしいです)

で、この続きは 2020年版として、その内(いつになることやら)書くかもしれませんが、その節は 読んでやってくださると嬉しいです。

 

 

2019-11-05 ひ、ひゃくまんえん!(2019年版)

実家の両親が旅行のついでに足を伸ばして、我が家に立ち寄った。
ひとしきりお互いの近況報告や 旅行のお土産話が弾んだ後に、唐突に母が言う。
「100万円、ダメにしたわ」

 

そこに居た全員が驚きの声をあげる。  「ひ、ひゃくまんえん!」
同じ屋根の下に暮らしている父ですら 初耳らしく、一緒に驚いている。

「旅行中に落としたの? でも旅行にはそんなに大金を持ち歩かないよね?」「留守中に空き巣に入られたか、水漏れ事故かなにかで家財道具をダメにした?」「まさか、骨董品の偽物なんて買わないよね?」などと皆が口々に言う。

 

それ以外だとすると・・・私の脳裏に咄嗟に浮かんだのは、詐欺の被害に遭ったのではないか・・・ということだった。
しかし、母は「なりすまし詐欺、振り込め詐欺」の類いには慎重で、まず騙されそうにはない。 それどころか、このブログの「謎」に書いたように、犯人?(警察官?)を泣かせてしまったかもしれない。   ↓

yugure-suifuyou.hatenablog.com

 その母から100万円もの大金を奪い取るとは、よほど あっぱれな話術だったのだろう。
どんな風に話を展開していけば 成功するのだろう・・・(いつの間にか 犯人サイドに立って思考している私)

 

皆の問いかけに母は答える。
「違うわよぉ。100万円貰い損ねたのよ」。

えー!! 貰い損ねた~? ということは、まさか、母が犯罪に加担してたってこと? 
いやいや、そんなことをする母ではない。ちょっと粗忽な所はあるが善良な小市民だ。
それでは、うっかりと「ネズミ講」式のものに手を染めてしまった? あるいは、言葉巧みに騙されて「受け子」か なにかをさせられた?
考えていくと冷や汗が出る。

 

「ふふふ」と、皆の驚きをひとしきり楽しんだらしい母は おもむろに続ける。
「あのねぇ、これに応募して、大賞の100万円を貰うはずだったのよ」
母はスマホを開いてHPを見せる。そこには「はがきの名文コンクール」の募集要項があった。 大賞は100万円、佳作は10万円とあった。

 

はい?? 「これに応募したの?」 「で、大賞はダメでも佳作は受賞したの?(していないらしい) 「必要な手紙ですら電話で済ませるような筆無精なのに、どうした風の吹き回し?」
また、矢継ぎ早の質問が飛ぶ。

「あ~たねぇ、考えてもご覧なさいよ。あの五木寛之さん達が読んでくださるのよ。すごいじゃない?  しかも、5分で書き上げたものが100万円よ。時給にしたら1200万円。 銀座のママより高くない?」 (母よ、なぜに銀座のママと同じ土俵に上がろうとする? あの方達は、美しさを維持するだけではなく、コミュニケーション能力・経営能力・スタッフ教育など、日々たゆまぬ努力を重ねて来られて現在があるのに、同じラインに並んで張り合おうとするなんて、 おこがましいんじゃないの? ←私の心の声)。 
結論:母はただ  欲にまみれていただけだった。

 

母は5分で書き上げた後、誰にも見せずに投函したらしい。
「だって、締め切りが当日(消印有効)だったと その日の夕方に気付いたんだもの、相談してたら間に合わないわよ。それに、みんなに相談して いろんな意見が出ると、私の意図するところと違うものができあがるじゃない? 私はね、自分の直感と感性を大事にしたかったの。(文豪か!?)」

 

父がぼそっと言う。「それでわかった(謎がとけた)」。
母は熱中症のニュースが流れる真夏日なのに、クローゼットから秋冬物の洋服を引っ張り出してあれこれ眺めていたとのこと。

それに、ある時期から そわそわと、自宅の郵便受けを 日に何度も覗きに行っていたらしい。その姿が大江健三郎さんの作品にでてくる「認知症のおばあさん」の描写にそっくりで・・・

父は 母が若年性認知症の症状が出たのではないかと心密かに心配し、機会を見つけて娘の私 (夕暮れ) に相談してみようと思っていたらしい。

 

結果発表は9月末に受賞者宛に郵送されるらしかった。

「遅くても10月初旬には結果が分かったはずなのに、どうして今まで誰にも言わずに黙っていたの? おしゃべりなお母さんがよく我慢できたねぇ」と尋ねると、「受賞辞退の方がいらしたら 繰り上げ受賞になるかもしれないじゃないの? そして、みんなが 100万円!と驚く顔を見るのが楽しみだったもの。話したくて うずうずしてたけど、ずっと我慢してたのよ」と母は言う。 

じっくりと推敲されたであろう ご自分の作品が 受賞との知らせを受けて 辞退する方はいらっしゃらないのでは?   しかも、なんで自分が補欠1番という設定になっているの?  クローゼットの秋冬物の洋服を品定めしていたのは、10月末の授賞式にどれを着ていこうか迷っていたためらしい.。(天井知らずの楽天家だ)

先日、インターネット上に受賞作品が掲載されたのを見て、母は遂に観念し 皆に報告したらしい。

 

どんな文章を書いて応募したのかと気になった。母は応募した はがきの写真を撮ってスマホに保存していた。皆で回し読みする・・・ふむ・・・う~む・・・。

小焼けが言った。「おばあちゃんの書いたのって、募集要項に書いてあるテーマに沿ってなくない?」 (テレビなら ここで「一同 どてっ!」となるところだ)

 

約2万7千通から選ばれたという作品を読む。 珠玉の作品揃いだ。 さすがです。 胸を打たれる。 5分で書き上げたものとは 文章のコクというか深みが違う。(お母さんごめん!) 

そして、受賞者発表があるまでの間、母のようにして待っていた人が27000人の中に 数名くらいは いらしただろうか・・・と思った。

 

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