何が起きてます? (その2)

麻酔から目覚めたら、先程ストレッチャーに乗せられて出ていった病室ではなく、別の場所にいた。「ここはどこだろう?」とぼんやりした頭で辺りを見回すと、ベッドの頭側が壁ではなくて、透明ガラスになっていた。透明ガラスのあちら側はスタッフ (ナース) ステーションらしい。カーテンが引かれているが、このカーテンはあちら側からのみ開くようだ。スタッフステーションは、夜中でも看護師さんがいらっしゃるし、明かりがずっと灯っていて心強い気がする。

 

それから、私の体には いろんなコードやチューブが繋がれていることに気付く。あらら、いつの間に? 前々日に手術が済んだ時はこんな重装備ではなかった。『検査結果が思わしくなかったのかなぁ?』と不安になりつつも、持ち前の好奇心がまたもや頭をもたげる。どんなものが繋がっているのか探ってみよう。

 

点滴チューブはさすがにすぐに分かる。 鼻には酸素投与のためのチューブ。これは低酸素血症回避のため?(知らんけど)。それから、指先にはめられているものはパルスオキシメータ? 血中酸素濃度や脈拍数を計るものよね?(知らんけど)。『他のものは、何だろう?』と病衣の中を覗いて見ると、カラフルなコードがある。コードの先をそっと辿ってみるとペタンと丸いものに繋がっている。これは心電図かな? それから、「この太いチューブはどこに繋がっているの?」と探っていると、突然、ウィーンという音と共に腕が圧迫された。痛い。もしや、これ、血圧計?誰も傍にいないのに定期的に自動で作動するらしい。優れものだ。(もちろん夜中でもお構いなしにウィーンとくる。残業手当もないのに働きものだわね)

これらのデータが全て 自動でスタッフステーションに送られるのだろう。安心な気もするけれど、寝返りも思うようにできない窮屈さがある。(ちょっとした拍子にチューブが抜けてしまいそうで心配)

 

転移が見つかった時、別の大学病院でセカンドオピニオンを受けようかと思いもしたけれど、転移そのものは どこで検査しても多分同じ結果だろう。それでも手術は別の方法を提案されたかもしれないとも思う。ただ、長くお世話になっている病院に「他の大学病院の意見も聞きたいです」とはなかなか言い出せなかったし、手術日程等があれよあれよという間に決まってしまった。う~ん。今更ながら、の話だけれど。

 

夕方、主治医の先生が来られた。「検査して止血もしっかりしましたし、点滴で鉄分の補給もしています。手術の時にかなり出血したので、それが胃の中に残っていて、あがってきたのでしょう」と、いつもの大らかな先生に戻られていた。状態が分かっていささか安心しつつも、他の方達もこんなに出血するのかなぁ・・・とも思う。

先生が去られた後に、不自由な体を もぞもぞと動かしながら、枕元に置いていたスマホを取り出し、キーワードを入れて検索する。私のような状態に陥ることは「ごくまれに」とか「4パーセント」とか、中には「0.06パーセント」というのもある。病院によって手術数も異なるので一概に比較はできないけれど、よくあることでもなさそうだ。

 

「私、失敗しないので」のドクターXのセリフと顔が浮かぶ。『それはドラマの中だけなのだなぁ』と、心密かに思う。いえ、執刀してくださった現在の主治医の先生がどうこうという訳ではなく、以前お世話になった主治医の先生が「別の大学病院を紹介します」とおっしゃったくらいだから、難しい手術だったのかもしれない。

それにしても、吐血した時の、先生やスタッフの皆さんの慌てぶりが、私の脳裏に焼き付いて離れない。本当にもう大丈夫? これから私、どうなるのだろう?

 

『あったら嫌だ こんなこと』というテーマで書かれていたものを思い出す。

その中のひとつに『手術中に執刀医が「あっ!」と叫んだ』というのがあった。私は麻酔で眠っていたから分からないけれど、もしドクターが手術中に「あっ!」と叫んでいたら、患者はたまりませんぜぃ、と思った。

そして、これから更に数日後、私はもう一度 大出血をしたのだった。元々 性格は血の気の薄い ぼんやりした人間なのに、更に体内の血液がなくなる・・・。「その3」に続く(かも)

 

※ 主治医の先生は、休日も「気になるから」と病室を訪れてくださったり、私の容体が悪くなったと知らせが入れば、帰宅途中にもかかわらず、また戻って来てくださった。今回のことではないけれど、手を尽くしても現代の医学の及ばないことは まだまだあるし、医療ミスで裁判になる例も耳にする。命を預かる仕事の過酷さを思い、頭が下がる。

文中に、主治医の先生に失礼な表現が出てきます。こんな恩知らずな夕暮れのことを嫌いになっても、医学・医療の道は嫌いにならないでください。

 

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