「で、ごめんなさいは?」と 女子高生は尋ねた

先日 久し振りに実家を訪れ リビングで談笑している時、突然 父のスマホが鳴った。

父はちらりと画面を見た後、知らんぷりしている。「お父さん、電話に出ないの?」と尋ねると、「友達や親戚は登録してあるから名前が表示される。こんな知らん番号には出ん」と答える。暫くすると切れた。その後に留守電が入ったという通知が届いたが、父は相変わらず 気に留める風もない。

 

後期高齢者 (父) を含む 二人暮らしの情報はどこかで漏れているのだろう。これまでも 怪しげな電話は自宅電話にもよくかかってきたらしく、父は用心しているのだろう。 

昔は 子ども達の元気な声で溢れていたこの界隈も、今では住民達が自ら「年金通り」と呼ぶほど 高齢者のみの世帯が増えた。 この状況を案じてか、交番のお巡りさんが定期的に回覧板で注意喚起もしてくださるとのこと。 それによると、『詐欺に遭わないための 1 番良い方法は電話に出ないこと』らしい。最初に聞いた時はギャグかと思ったけれど、やましいことをする人は証拠が残るのを嫌がるから、留守電が応答すれば メッセージを残さずにすぐに切るというのも一理ある。なるほど。(お勧め通り、実家の電話はいつも留守電になっている)

 

「今更だけど、スマホは ホントに良いよ」と両親が口々に話す。用事がある人は、父・母のそれぞれのスマホにかけてくるので、呼びに行く手間もないし、登録していれば発信者が誰かも分かるし、高齢者特典で全国どこにかけても通話無料だし、ネットのギガ数も使い切れないほどあるし・・・と携帯会社の回し者かと思うほど スマホの便利さを強調する二人。(確かに もう自宅電話は必要ないかもねぇ)

 

そう話しながら、母は さっき父のスマホに表示された番号を 自分のスマホで検索している。「放っておいたらいい」と父は言うけど、母は好奇心が強い。『この人は誰? 詐欺の人? それとも本当に大事な用がある人?』の いずれなのかを知りたいらしい。今までの経験によると、番号検索した結果は「詐欺電話」というのが 1 番多かったとのこと。

 

「あらぁ、これ、警察の電話番号だわ」と母が言う。しかも新幹線で何時間もかかるような遠方の警察署。「お父さん、何かした?」と母は尋ねる。「いや、何も。 母さんこそ、どんな悪事を働いた?」と父。 そう言いつつも 二人は「自分は何か悪いことをしたかなぁ。どれがバレた?」と記憶の糸をたぐっているに違いない。大きな犯罪には手を染めないけれど、警察からの電話となると『ちょっとだけ』何かをしたかもしれないと思ってしまう小心者で善良な(多分)  小市民だ。(もしも 4630 万円がウチに間違って振り込まれたのなら すぐに返金するから 町役場の人もあんなに苦労しなくて良かったのにね)

 

留守電も入っているのに、父は「聞かなくていいよ」と言う。けれど、母は「警察からなら、何か大事な用事かも知れないよ」と気になる様子。

電話をかけてこられた警察署の 隣の県には たまたま 父の兄夫婦 ( 70 代後半) が住んでいることもあり、「もしや・・・」という想像に拍車をかける。「こちらの ささやかな?悪事が見つかった」というよりは、「身内 (父の兄夫婦) が大事故を起こした、或いは、認知症で遠出をして保護された」とか「落とし物」とか「クレジットカードが不正に使われた」等ではないかと心配になったりもする。実家の両親が住んでいる場所からは遠方過ぎるので、テレビドラマのような「捜査に協力して欲しい」とか「犯罪の被疑者なので出頭要請」という可能性は低いだろう。

 

母に催促されて 渋々、父が留守電を聞く。「『折り返し電話ください』だって。名前も言ってるが聞き取れん」「それだけ?」と私達。留守電を皆で聴き直してみたけれど、父が言うように かけてきた人 (警察官?) の声が小さくて名前が聞き取れない。「そうだ!この警察署を管轄する県警本部の番号を調べて、問い合わせてみようよ」と母。心配というよりは真相を知りたい方が勝って うずうずしている様だ。

県警本部に電話をかけ 事情を述べると、「その番号は間違いなくこちらの県の警察署の番号です。すっきりされたいでしょうから 安心して折り返しの電話をかけてみてください」とのこと。

 

ここまで来ると 父も観念して さきほどスマホに表示された警察署の番号に電話する。スピーカーモードにして 皆で息を潜めて聞く。「あなたのお名前と携帯番号は?」「いつ頃、その電話はかかりましたか?」「留守電に残した警察官の名前は?」等と尋ねられる。「ちょっとお待ちください」とその都度、何度か待たされ、結局「誰がかけたんでしょうね? 何だったんでしょうね?」とこちらに尋ねられる始末。 そう仰られても・・・こちらは知らんて。元々そちらがかけて来られたのですもん。聞きながら 一同、次第に疲れて面倒臭くなってくる。

 

で、警察署の結論は・・・「間違い電話だったんでしょう」って。お~い。間違い電話だったんか~い? その前の 県警本部の人は「すっきりされたいでしょうから」と言われたけれど、もやもやさせたのは どっちやねん?

 

それまで静かに成り行きを見守っていた 小焼けが ボソッと言った。「で、警察の人は『ごめんなさい』って言ったっけ?」。 「そういえば、謝らなかったなぁ」と父。こんなに皆で振り回されたのにね。 (野次馬半分だけど) 

思えば、小焼けは幼児の頃から ひいおばあちゃんに、「ごめんなさい」と「ありがとう」を叩き込まれていたのだった。恐るべし『三つ子の魂百まで』なり。