母は言った「私ね、お父さんと別れようかと・・・」。 またですかぃぃ?

(実家にて)警察署からの間違い電話の後、母の話はまだまだ続く。

「私ねぇ、お父さんと別れようかと思っちゃったわよ」。母は時々こういうことを言う。 最初の内こそ「えええ! 何を唐突に!?」と慌てもしたが、回が重なると こちらも「またなの? 今度は誰を好きになったの?」と余裕がある。

母がこんなに伸びやかに楽しげに暮らしているのも、父あってのことだ・・・と私達は思っている。そんな父と何十年も連れ添ってきたのに、別れるって、どういうこと?? 母が初めて「別れ話」を口にした時、驚きつつもよくよく聞いてみると、何のことはなかった。母は大河ドラマや朝ドラの主人公に きゅんきゅん して「もし この人にプロポーズされたら、私、お父さんと別れるわ。お父さんには悪いけどねぇ」と 100%ありえない妄想を語っているのだ。

母の心情は分からなくもない。脚本家が考え抜いた台詞を 男性主人公に語らせているのだし、整った顔立ちの 演技力のある俳優さんが演じるのだから、魅了されるのも仕方がないかも。(「役者さん」のファンというよりは、「役柄の人物」が好きらしい )

 

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yugure-suifuyou.hatenablog.com

 

ところが今回は「そういうんじゃないのよ~。一瞬、本気でそう思ったんだから」と言う。 「えっ、どうしたの?」と私は ちょっと姿勢を正す。

母が言うには・・・、高速道路を母の運転する車で走っていた時のこと。走行車線が渋滞気味 ( 先頭を走る車がやたら遅い ) だったので、「追い越し車線に出て、列を抜けたら走行車線に戻ろう」と助手席の父が言った。連なっている車の列が長く 追い越すのも大変そうだと思った 母は「このまま走行車線でいいわ」と言ったのだけど、「ちょっとだけスピードを上げれば追い越せるよ」との 父のひと言に従い、追い越し車線に出て グイーンとアクセルを踏み、列を追い越した後 走行車線に戻った。

すると、バックミラーに映る白い車が赤色灯をクルクルと回し始め、追い越しざまに助手席の人が窓から手を出して停止の合図。覆面パトカーだ。母は「捕まっちゃった! ゴールド免許だったのに・・・」とがっくりきたらしい。

 

覆面パトカーの警察官は丁寧な物腰で にこやかに「運転手さん、免許証を持ってこちら ( 覆面パトカー) に乗ってください」と誘われた。(警察官の方達がこんなに柔らかな態度を取られるのは、スピード違反で止められた人達の殆どが不機嫌で、中には自分のことは棚に上げて くってかかる人もいるからなのだろうか? それらの悪態をも 柳に風と受け流しながら職務を全うなさる警察官の皆様、気苦労がおありのことでしょう。お疲れ様です)

 

警察官の方は尋ねられたそうだ。「私たち、すぐ後を走っていたのですが、急に追い越し車線に出られてスピードをあげられましたね。どうかされましたか?」。 母は「でしょ? でしょ?  私、ちゃんと制限速度を守って、というより、渋滞気味だったので かなり遅いスピードで走っていましたよね?」と急に味方を得たような気になったらしい。 調子に乗って「助手席の夫がですねぇ・・・」と言っている内に 次第に怒りも込み上げてきて、「夫の言うことなんか、聞かなきゃ良かったです。ゴールド免許だったのに・・・。あんな夫、別れようかしら?」とまで口走ったらしい。

警察官の方は慌てて「まぁ、そうおっしゃらずに」と取りなしてはくださったが、見逃したり 点数や反則金が少なめになるはずもなく・・・。それでも、事務手続きが済んで覆面パトを降りる時に「ご主人と別れないであげてください」ともう一度頼まれたそうだ。(警察官の方、優しいなぁ)

母だって頭では分かっているのだろう。「誰がなんと言おうと、一旦ハンドルを握ったら全て運転手の責任」ってことは。でも、「お父さんがあんなことさえ言わなければ・・・」と八つ当たりをしている。ゴールド免許がなくなるのも (それに伴って 任意保険料があがり、更には免許更新時の料金や講習時間が増えるのも) 残念だったのだろう。父は「だから、父さんが運転しようかと・・・」と言いかけて、母の方をちらりと見て口ごもった。(お父さん、今言うと火に油を注ぐわ。辛抱してねぇ)

 

母はそれだけ話したら気が済んだらしく、後はケロッとして、「『運転手さん』って呼びかけられるのは新鮮な響きね」と言う。仕事も既婚・独身も関係なく一人の人としての呼び名のように思えるらしい。『○さんの奥さん』『○ちゃんのお母さん』『○ちゃんのおばあちゃん』でもなく、独立した『運転手』さん。大きな事故に至らなくて何よりでした。