ドアの隙間から、何かが覗いている

ん? 何か気配を感じて振り返った。
リビングのドアが少し開いていて、隙間から何かが こちらを覗いている。顔は見えるが 姿は隠れている。 べったりと白く塗られた顔。  両端が大きく裂けた真っ赤な唇。  丸い鼻。 眉から頬にかけて 縦に走る黒い線。・・・それだけは見て取れた。

 

わぁぁ!! 驚きの余り 息を呑む。

「え! 目の錯覚?」 「人間ではない何か?」 いやいや、それは現実的ではない。

「顔が分からないように変装した強盗?」・・・これが一番可能性が高い。
この家には 夕方まで誰もいないと思って空き巣に入ったものの、私がいて鉢合わせした? 

ってことは、私、強盗に殺される? その前に 家中の現金と金目のものをかき集め、「これが全てです。あなたのことは誰にも言いませんから」と言いながら、(「ブログには書くかも知れないけどね」とは さすがに口にできない) かき集めたものを渡して命乞いをしてみようか?  もしかしたら それで おとなしく帰ってくれるかも。しかし、私の へそくりのことだけは黙っていよう。せっかく苦労して貯めたんだもの、渡すのは嫌だ。

これらの思いが一瞬で脳裏を駆け巡った。時間にするとほんの数秒。
いつもは ゆっくりとしか動かない私の頭の中が、今だけは急速にくるくる回転する。

 

私は「目に見えない何か」はあまり怖くない。先日ブログに書いたように、「見守られている」という感じがするから。

もし映画やTVに出てくるような「邪悪な霊」が存在するとしたら、誰かに何か訴えたいことや 心残りがあるので そういう状態になっているのではないかしら?と思ってしまう。「どうしたの?」と膝を交えて(といっても相手には脚がない)じっくり話を聞けば理解しあえるような気もする。(町内の世話焼きおばちゃんか!?)

 

それよりは、生きている人間が凶器を持って こちらに向かってくる方が はるかに怖い。

相手は人間だ。怖い!

 

私がフリーズしていると、「ふふふ」という くぐもった声と共に、姿がぴょこんと現われた。 娘の小焼けだ!  なんなのよぉ~。まったく~! ああ驚いた。

 

聞くところによると、E 先輩が「ハロウィーンの日はお揃いにしよう」と言って、ピエロのお面を二つ用意し、その内のひとつを 先日 渡してくれたとのこと。手にとって見ると、お祭りの夜店に売っているようなものとは違って、質感が人肌のように良くできている。さっきは お面だとは分からなかった。

 

娘の学校は、ハロウィーンの日は 仮装して英語スピーチをすることになっている。
昨年は「どんなのにしよう?」と張り切って、スピーチの内容そっちのけで、衣装のことばかり あれやこれやと家族に相談してきた。

そういえば、今年は何も相談されなかった。 そういうことだったのか・・・。 E 先輩とお揃いになるように、洋服も ピエロのお面に合うような色合い・デザインのものを自分で選んで 学校へ持って行ったのね。

 

ハロウィーンといっても、中学生だから 夜に仮装して街に繰り出す訳でもない。
それで、学校帰りに E 先輩と二人で ピエロのお面をつけたりはずしたり、途中で出会った小学生や犬を驚かせたりしながら、いつものようにバス停ひとつ分だけ 一緒に歩いて帰ってきたらしい。 ご陽気じゃのぅ・・・。