何が起きてます?(その5)& ご挨拶

退院して 2 週間後に外来受診をした。経過報告と検査だと思って気楽に行った。手術後 2 か月間は食品の制限があり、口にできるものが少なかった。はぁ、食いしん坊なのに辛い。体に良いとされている繊維たっぷりの野菜さえも 胃の傷には悪いとのこと。スイーツと揚げ物のない生活は体重をかなり減らした。身も心も パサパサになりそうだった。それでも頑張ったのよ 私。褒めて ! 

手術日から数えてまだ 2 か月は経たないけれど、この日の検査で内部の傷がかなり癒えていたら、生クリームたっぷりのスイーツ、肉類 (特にステーキ)、コーヒー、カレーなども少しなら許可になるかな?・・・と楽しみだった。うふふ。うふふ。

 

ところが・・・主治医の先生が「夕暮れさん、気をしっかり持って聞いてください」と前置きをなさる。えっ! どういうこと? 予想外の展開に言葉が出てこない。

今までも 私がオヤジギャグを言うと「お気を確かに」と娘の小焼けに たしなめられたことは何度もある。けれども「気をしっかり持って・・・」はニュアンスがちょっと違う。

先生は、私の戸惑いを察しられたかのように、ゆっくりと「前回の手術で摘出したものの 病理検査の結果が出まして・・・。結論を先に言いますと、癌がもっと深くにまだあるようです」と仰る。 はい? なんですって?? この前の手術の時には「胃に関しては、早期発見だからすぐに対処すれば大丈夫」と言われたのに・・・。こうなるともう その後の先生の説明が耳に入ってこない。

そういえば・・・、法廷で裁判官が死刑判決を言い渡す時には、犯した罪の重さを被告にしっかり認識させる為に なぜその判決に至ったのかという説明を先にし、「死刑」という言葉は一番最後に口にされると聞いたことがある。結論を先に聞いてしまうと、被告は頭の中が真っ白になり、その後に述べられる言葉が伝わらないから らしい。なるほど、こういうことなのね、と妙に納得する。

 

先生は更に、手術の内容(胃を2/3摘出)等を説明され、「手術日をいつにしましょうか?」という相談に入られる。前回の手術の時には言い出せなかった「セカンドオピニオン」という言葉が 咄嗟に口をついて出た。自分でも びっくりする。先生は少し驚かれた(ように見えた)後、笑顔で「そうですね。ご自分の納得のいくようにされた方が良いですね。ご希望の病院へ持参する書類等をすぐに用意しましょう」と言ってくださる。

入院中にあんなによくしてくださった先生に 申し訳ない思いがするけれど、胃をそんなに切除しなくても済む他の方法はないものかと、素人ながらに思いもする。

 

後日、かなり遠くなるけれど 別の大学病院でセカンドオピニオンを受けた。30 分~1 時間という時間制限の中、質問したいことを前もって準備して臨む。それでもすぐに終了するのではないかという不安もあったけれど、胃癌専門の準教授が丁寧に説明してくださって、1 時間ぎりぎりまでかかった。こちらの病院では「(不運にも 癌のできている場所が悪いので) 胃の下から 4/5 切除、或いは全摘出」とのこと。(切る範囲が増えとるやないかぁ~)

先生は仰る。「こんなに切らなくても、癌の部分だけ ちょこっと えぐり取る とか、下から 4/5 ではなくて 上から 1/5 切ったら良いじゃないか、と思われるでしょうね?」。うんうん、そうなんですよ、と私は心の中で呟く。きっと先生は数え切れないほど同じ質問を受けて来られたのだろう。

なぜそういう手術になるのか という説明を受けて納得し、こちらの大学病院で手術をしていただくことになった。病院から頂いた資料を、帰宅してからじっくり読む。手術に関すること、術後に起こりうること、長く悩まされるかもしれない後遺症等々。多くの方達の経験を元に書かれているので、全てが私に当てはまる訳ではないのは分かるけれど、「もし・・・」「~だったら」と不安がわき起こる。

 

昨年、あと少しで 長年の病院通いも終了すると思った矢先に、新たに別の箇所で見つかった癌。その時は さすがにショックで気持ちを立て直すのに時間がかかった。病気や事故などで思いもかけないことが自分の身に降りかかった時、人は次のような段階を踏んで次第に受け入れていくらしい。

『ショックを受け、自分自身に何が起きたか理解できない → 現実に目を背けて、認めたくない → 落ち込んだり、行き場のない怒りがこみあげる → 負けずに生きる努力をしようと思い始める  → ポジティブに捉えて、受容し前へ進んで行こうとする』

その時は、自分の心がまさにこの通りに辿っていくのを感じて、この段階を見つけられた学者(Dr.?) さんは すごいなぁ・・・と思った。

 

ところが・・・今回は なんだか違う。最初の段階の「ショック」や「認めたくない気持ち」「行き場のない怒り」までは同じなのだけれど、最後の段階の「ポジティブに捉えて、前へ進んでいこうという気持ち」になったかと思うと、あらぁ・・・、また最初の段階に戻るのだ。「なんでやねん?」とか「バカタレ(乱暴でごめんなさい。誰か特定の人に向かって言っている訳ではありません)」とか。かなり心が揺れる。

 

心を なんとか最後の段階に落ち着かせようと試みる。建築家の安藤忠雄さんは、癌で 胆のう、胆管、十二指腸、膵臓脾臓を摘出され、ご本人いわく「 5 臓なしの体」になって 8 年とのこと。「それでも私は不思議と元気です・・・ 5 臓がないなら、ないように生きる」と話されている。田辺聖子さんの『気張らんと まあぼちぼちいきまひょ』って言葉も良いなぁと思ってみる。

「そういえば・・・、『どうしてずっと犬のままなの?』と問いかけられたスヌーピーが『配られたカードで勝負するっきゃないのさ・・・それがどういう意味であれ』と犬小屋の屋根に仰向けに寝っ転がって 言ってたなぁ」と思い出す。この言葉にはいろいろな解釈があって、否定的な意見もあるようだけれど、私は「自分の持っているカードを上手に丁寧に使いこなしていこう」と捉えようと思ったりもする。

それなのに、また気持ちが元に戻り、これらの段階をぐるぐると回る。同じような手術をされた方が多いことも知っている。もっとしんどい状態の中で闘っていらっしゃる方達のことも知っている。どうして今回、私は最後の段階に辿り着き ポジティブに捉えて進めないのかなぁ・・・。

 

前回の手術をしてもらった規模の大きい病院の他に、開業医の先生にもお世話になっている。入院・手術のことを伝えると、薬を最大日数まで処方してくださった。処方箋を持って調剤薬局に行くと、顔なじみの薬剤師さんが驚かれた。事情を話すと みるみる内に涙ぐまれ「夕暮れさん、まだお若いのにね。胃の殆どを失われるなんて・・・。日常生活や後遺症で 大変なこともあるでしょうし」とおっしゃる。お仕事柄 様々なことを知っておられて 案じてくださっているのだろう。優しいお人だ。

私は「これ以上 転移して手遅れになる方が心配なので、しっかり切除して貰うことにします。後遺症も 人それぞれでしょうから 手術してみないと分かりませんしね。ずっと苦しまれる方もいらっしゃれば、すぐに仕事に復帰してお元気な方もいらっしゃるようですし・・・」と応える。いつの間にか、慰める側に回っている。

たまたま自分が口にした言葉に「それもそうだ」という思いに至る。癌が別の部分に更に転移する前に、危なそうな所は全部とってもらっておかなくちゃ。

今年から優先順位第一位は「死なないこと」にしよう。元々、何かあっても「命に別状なければそれで良し。ま、ええ」と思う のんき者であった。手術後は、死なないようにぼちぼちと楽しく暮らしていこう。

 

音楽友達のあずきさんが『島より』という曲を弾き語りされていた。あずきさんの 穏やかで澄んだ歌声と歌詞から おとなの切ない恋の世界が広がってくる。

『"島より”とだけしか明かさぬ文(ふみ)は それゆえ明かすでしょう 心の綾を』というフレーズが心に響く。インターネットを介して知り会えた方達のことを思い浮かべる。”島より”としか明かさぬ文のように、お名前も住んでいらっしゃる場所も存じ上げないけれど、綴られる言葉からその方の ”心の綾” 、シルエット (生き方・考え方など) が浮かびあがる。それぞれに抱えておられるものも伝わってくる。頑張っていらっしゃるのだなぁ・・・と頭が下がる。

そして、私の拙いブログや twitter に DM やコメントをくださる心優しい方達。今回の病気に関しては頂いたコメント非公開設定にして申し訳なく思うけれど、たくさんの温かい言葉に深く感謝する。改めて拝読しながら、込められた皆様の思いに何度も うるうるする。

 

 ↓  あずきさんの『島より』です。ご本人に了承を得てご紹介します。


www.youtube.com

 

 ↓ 同じく あずきさん弾き語りの『India Goose』。以前、あずきさんが「友達が仕事で独立した時にこの曲を贈ったのよ。この曲を歌う時は、エールを送る想いで歌うの」とおっしゃったことがある。「私、この歌、好きなんです。ブログに載せても良いですか?」とお尋ねすると、すぐに  YouTube にアップしてくださった。たくさんのありがとうを あずきさんに ♪

曲のタイトルになっているインド雁は、検索するとモンゴル高原で子育てを終え、冬が近づくと 暖かいインドへと旅立つ』とのこと。ということは、乱気流が渦巻く中、命がけで上昇気流に乗ってヒマラヤ山脈を越えるのね? すごっ。歌詞に沿ってその様をイメージしてみる。強い羽を持つ鳥たちは、冬が来る前に既に山脈を越えて行っている。残された薄い羽を持つ小さな小さな鳥達が雪風にあおられ、編隊を組み直しながら頑張って進もうとしている姿が目に浮かぶ。偉いなぁ・・・。強いなぁ・・・。

『さみしい心  先頭を飛んで♪  弱い心  中にかばって♪  信じる心  一番後ろから 歌いながら飛ぶよ♪』・・・。

あずきさんの歌声が温かく心に染み入る。スポーツの応援に見られるような 大声で送られるエールよりも、あずきさんの優しく静かに語りかけるようなエールの方が 私にとっては いつまでも長続きするエネルギーになる気がする。 ん? これも持続可能なエネルギー? 「太陽光」「風力」「地熱」・・・の他に、私の辞書には「音楽の力」も付け加えよう。

 

↓ あずきさんの『India Goose』です


www.youtube.com

 

☆ だらだらとした長文を最後までお読みくださった皆様、ありがとうございました。上記のような訳で、先月ようやく「ただいま」を言えたばかりなのに、もう暫くすると 私 また、ひとっ風呂浴びて・・・あっ、違った・・・ひとっ腹 切って参ります。

入院中は、上げ膳据え膳(点滴が主だけど)だし、時間もたっぷりあるので 本は読み放題 だし ( 今回は多目に持参しよう )音楽も聴き放題 ( ツイキャスの録音 & YouTube )。更には (その4) で書いたような出会いもあるかしら?( 今度はどんな方達かな?) 等と捉えて、行ってきます!

 

カナラズ モドッテクルカラ マッテテネ

 

f:id:Yugure_Suifuyou:20220206175017j:plain