暇人の多忙(その1)

車に付着した黄砂を大雨が洗い流してくれた。晴れた翌日、庭に出る。娘 (小焼け) が植えたパンジーが、どのプランターからも零れんばかりに咲き誇っている。美しく見事な眺めだ。柔らかな風に包まれて花殻を摘む。腰が痛くなったら背を伸ばし 青空を仰ぎ見る。平日の のどかな時間。こういうのも幸せだなぁと思う。本来なら定年退職後(仕事を成し遂げた感を持てた後)に こんな風に過ごす時間が訪れるのが楽しみであったけれど、予定より かなり早く来てしまった時間ではある。

 

職場の厚意で、今までいた部署から 在宅ワーク専門へ切り替えて貰った。今までの仕事は心痛もあったけれど、好きだったから心残りもあった。もう少し 目処が立つまで頑張りたいこともあったし、ここで辞めたら無責任ではないかと悩みもした。でも自分の体調と相談しながらの日々も辛く、通院・入院などで 同僚や上司に迷惑をかけるのも心苦しい・・・と自問自答もした。過労で倒れた末に退職した父の言葉が浮かんだ。「父さんも在職中は、自分がやらねば・・・と責任を感じて無理をしていたけど、いざ辞めてみれば、自分でなくても支障はなかったんだな」 そうよね、お父さん。自分でなくても仕事は回っていく。ちょっと寂しいけどね。

 

在宅ワークになって通勤時間がゼロになったし、締め切りだけしっかり心に留めておけば あとは自由なのがありがたい。ダンピング症候群が出るのを案じて、外出前には 食事時間を逆算して決めねばならないことからも解放された。もし体調が悪くなっても心置きなく対処できる。疲れたら即ベッドに直行もできる。平日の昼間に庭に出て寛ぐこともできる。何よりも嬉しいのは 小焼けを「行ってらっしゃい」と送り出し、「おかえり~」と迎えることができること。高校 3 年になった小焼けは来年の今頃はもうこの家にはいないだろう。残された 共に過ごせる時間を楽しもう。

 

私自身の年金が貰えるようになるのは 遥か先のことだ。これから収入は減るけれど、工夫して支出を抑えれば何とかなるだろう。その上、家計が楽になるような ちょっとした収入(お得なこと)はないかなと探してみる。ポイ活は?と閃く。調べてみると、その名を誰もが知っている大手会社の実施しているアンケートがあった。ここなら大丈夫かな? アンケートに答えればポイントが貯まるそうだ。貯まったポイントは日々の生活(スーパー、ドラッグストア、ガソリンスタンド、ネット購入など)で使える。

申し込みは簡単で すぐに完了した。そしてアンケートはメールで ほぼ毎日送られてくるようになった。政治・経済に関すること、車・コンビニ・食品・美容・健康関連、大学からのアンケートも幾つかある。1 つの回答に 15 分程度かかるのもあるけれど、ポイントはみるみる貯まる。これなら卵の値段が高騰しても L サイズが買えるわね。

けれども、ほどなくして不安になった。こんなことして大丈夫かなぁ? 答えたアンケートを集めると個人情報が溢れている。中には こちらの郵便番号 (住所がほぼ特定される)、年齢、家族構成、仕事内容、年収、賃貸か持ち家か、預貯金額などを聞かれることもあり、次第に怖くなった。そういえば、最初に申し込みをする際に 本名や正確な住所、メールアドレス、電話番号まで登録していたことを思い出す。アンケート会社は 委託を受けて実施しているだけでも、個人情報はいろんな所に飛んで行くのだろう。もうやめようかな。

 

報道を賑わせた強盗事件や、詐欺のドキュメンタリードラマのことが脳裏に浮かんだという母は「危なすぎるわよ。悪用されたらどうするの? 強盗や詐欺の標的にならないように『貯金はなし。収入はほんのちょっと。大家族』と回答するのよ」などと言う。「どうして大家族なの?」と尋ねると「『家族が多いと すぐに相談できる人が傍にいるから 詐欺にひっかからないし、強盗に入っても皆殺しするのが大変だ』と相手が判断するじゃない?」と母は力説する (←あくまで個人の意見です)。二人家族なのに事実でないことを書くのも不誠実でしょうよ。ちゃんとしたアンケート会社だと思うけれど、個人情報がどう使われるのか考えるとやはり不安で 結局やめてしまった。

 

他に何かないかしら?と思っていた矢先に「商品の感想を送ってくださった方に、ブランド米プレゼント」という記事が目に入った。原稿用紙 1 枚なら書けるかも、と軽いノリで感想を書いて送った。「当選発表は発送をもってかえさせていただきます」とある。「ねぇ、ホンマに誰かには 送ってる?」と問いたくなる あの「商品の発送をもって・・・」だ。期待もしないまま すっかり忘れていた頃、宅配便が届いた。わぁ!ホンマに届いた。ごめんねぇ~ 疑って。しかも普段は口にしたことのない高級米。「明日炊くだけの米があればそれで充分」とおっしゃる良寛和尚にも分けてあげたい。プレゼントされたのは全国で 5 名のみとか(感想の内容というより、ただの抽選だったらしい) みんなで美味しくいただこう。

 

こうなると、他にも美味しい話はないかと探す(出た!物欲の夕暮れ)。知恵と工夫を友として ( by アンパンマン ) 貧乏は貧乏なりに楽しいわ。

お! ポイ活とお米ゲットの次を見っけ。なになに? 謝礼は原稿用紙 1 枚で 2000 円らしい。ざっと計算すると、契約終了時には諭吉さんが連れだって我が家にやって来る。なんて素敵じゃありませんか ♪ 軽労働・短時間・高収入・・・好きだ。応募条件として、まずは課題にそって原稿用紙 1 枚分の意見を書いて送る必要がある。こちらは気合いを入れて書いてみたら ほどなくして採用通知が届いた。よっし、本業の仕事の合間をぬって がんばろう!!と決意した(この時、夕暮れはまだ知らなかった。すぐに とんでもなく後悔することになるとは ←サスペンス風

・・・命がまだあれば つづく・・・