2019年1月10日

祖母が まだ自宅に居た頃、私に言ったことがある。
「あそこに、黒いマントに黒い帽子の男の人がいて、こちらを見てるよ」。

その日は大雨。 祖母のいる部屋は2階にあった。 その2階の窓の外に、男の人が祖母と同じ目の高さに存在する・・・。   不思議な光景であった。
「怖いの?だいじょうぶ?」と私が問うと、祖母は「ううん、こんな大雨の中、お仕事ご苦労様だと思って」と言った。

 

それから時は流れ、祖母の認知症も更に進み、現在は施設にお世話になっている。
お正月には、遠く離れて暮らす甥や叔母達もが 祖母の部屋を訪ね、にぎやかに過ごした。

元日から数日後、実家の母が再び祖母の元を訪れた時、職員さんが次のような話をされたそうだ。
深夜に祖母の部屋からコールが鳴るので、職員さんが急ぎ駆けつけると、「会いに来てくれた孫達が帰るから、見送りに行きたい」と言ったらしい。

 

職員さんに付き添われて、玄関の見える場所まで行くと、祖母は にこにこと「忙しいのにありがとうね。気をつけて帰るのよ」と、ゆっくりと手を振りながら言ったとか。 その眼差しがとても穏やかで幸せそうであったと、職員さんは母に教えてくださった。

 

祖母が 幻想の孫達を見送りに行ったのは、深夜の3時。 夜勤の職員さんは人数が少ないし、用事もたくさんあると思う。 それなのに、祖母の幻を共に見、寄り添って、祖母の世界に一緒に行ってくださった職員さんに 私は心から感謝する。

 

数年前、祖母が黒いマントと黒い帽子の男の人の幻を見た時、私は「こちらの世界」に祖母を呼び戻そうとしていたのではないか。
「祖母に見えている世界」に一緒に行って、もっと別の応え方をすればよかったと、今更ながら悔やむ。
どう応えればよかったのだろう・・・。あれこれと自問自答する