車で外出した。 いつもは カーナビの「推奨ルート」のまま行くのだが、途中からは 何度か目にしたことのある風景になった。
「あっ、ここからの近道なら知ってる。車はめったに通らないし、時間の短縮になる」と ナビの勧めるルートに従わずに進んだ。 カーブの多い 狭い道だが、大丈夫(・・・のはずだった)。
近道をどんどん進んでいると はじめて 対向車がやって来た。 すれ違える程の道幅は無く、どちらかの車がバックして待避スペースで待つしかない。
私は車のトラブルが苦手だ。こちらが優先に思えても 相手にその気がなさそうなら、すぐに道を譲る。
今回も譲ろうと思ったが、通ってきたばかりの道を思い起こすと、待避スペースまで かなり後退する距離になる。微妙に曲がりくねっている道。 しかもバックするとなると、ゆるやかではあるが こちらは「登り道」になる。 う~む。
反面、対向車の待避場所は…と首を伸ばして見ると、 こちらからでも確認できる位置にある。すぐそこだし、身軽な軽自動車だし、この場合は さすがに相手方がバックしてくれるだろうと思った。
私達のいる道は確かに狭いが、テレビの「ぽつんと一軒家」のように、あと数センチで車のタイヤが道から外れ、ガードレールのない斜面を滑り落ちて下の川に転落・・・というほどのものではない。
対向車に目を向けると、運転席と助手席の若い女性が、 大笑いしながら(この期に及んで ご陽気だ)二人して 両手を左右に激しく振っている。 口元から察するに「無理、むり、無理」と繰り返し言っているようだ。 車には初心者マーク。
下がりたくても 下がれないのね。 「ええよぉ~」と 朝ドラの 日本画家の口調を真似ながら、私がバックすることにする。
ところが、直線でない 狭い登り道をバックするのは、予想していたより難しかった。 ガードレールが付いているため転落の危険はないが、その分、車をぶつけたり(こすると)修理費がかなりの額になりそう。ドア2枚にまたがって傷が付いたら、私、泣くわ。
カーナビのバックモニターを見たり、目視で 後方の左右・前方の横など、首をせわしなく動かし 安全確認しながらノロノロとバックする。
助手席の娘が のんびりと言う。「お姉さん達、応援してるよ」。
視線を前に戻すと、対向車の二人が 今度は 両手に握りこぶしを作り、前後に揺らしながら「がんばれ~ がんばれ~」としてる。
「あっ、ありがとう! 応援してくれて」・・・(ん? なんか違わないかぃ? ま、ええ)
ようやく、待避場所まで辿り着き、彼女達の車が通り過ぎるのを待つ。
目と目が合う。 私は安堵して にっこり笑う。共に頑張った仲間のような気になる。
彼女達もニコッと笑った後、な、なんと、お辞儀しながら、両手を合わせた。
えっ! 私、拝まれた? 観音菩薩様になった?♪♪ こんな人? ↓
( ↑ イラストレーターの マルムギさんから頂きました)
娘の小焼けが ぼそっと言った。
「あのお姉さん、運転中なのに (拝みながら) 両手をハンドルから離してるよ」。
(明るい彼女達が無事 目的地に到着することを祈るばかり・・・)