怪しい二人。 え~、私もですか?

母が電話をかけてきた。いつもは  LINE で簡単に済ませるのに、今回は珍しく電話。着信を知らせるスマホの画面を見ながら、何かあった?と一瞬 不安になる。

コロナ関連・仕事・家族の近況などの後、母は突然に「お父さん (私の父) がね、この頃だいぶ忘れっぽくなって 心配なのよ」と言い始める。 ( 本題はこれでしたか? それで、父に聞こえないように 別の部屋から かけてきてるのね)。

 

父は昔から暗算が早かった。母は「ねぇ、お父さん。ΔΔΔ 割る ΔΔ は幾ら~?」とか、「ΔΔΔの 2 割 って幾ら~?」などと電卓がわりに重宝していた。世界のことにも詳しい。何か尋ねても「この国は以前はどういう状況で、現在はこうなっている」と即答するし、TV でふと耳にした国名を「どこにあるんだっけ?」と聞くと、略図を描いてすぐに示してくれていた。 その父が、心配な言動を とり始めている? すぐには信じがたい。

 

父がすっかり忘れていた、という具体例を 母は幾つかあげる。「それくらいは、大丈夫じゃない?」という程度のものも含まれては いるけれど、う~ん、たしかに、こう幾つも重なると、母が心配するのも 分かるような気もする。

その中の一つに、不思議なものがあった。聞いている私の方も混乱してきて、何度か確認の質問をするほどだった。母の話は次のようになる。

 

★冷蔵庫に【丸の内タニタ食堂の味噌】とラベルが貼ってある 新品の お味噌のパックが入っていた。 父と母の好みの味噌は、車でかなり走らなくてはならないほど 遠い場所で販売されている手作り味噌なのだけど、こういう状況なので出かけることもできない。

それで、あの健康・栄養分野で有名な「タニタ」が作った味噌だから  試しに食べてみたくなった父が買ってきたのだろうと、母は思っていた。
今まで使っていたお味噌が ちょうど切れたので、そのタニタの味噌を使おうとして、母は何気なく言った。「お父さんの買ってきた お味噌を使ってみるから、楽しみにしててね」。すると父は驚いて、「えっ、それはお母さんと一緒に買ったものだよ」と言う。


母にはそのような記憶はない。あるのは、冷蔵庫にタニタのお味噌が入っていた というところから。 母も驚いて、「えっ、私も一緒に買った?」と聞き返す。父が言うには、スーパーで「タニタ食堂のお味噌が欲しいけど、どこにあるのかしら? 私、お店の人に聞いてくるね」と母が言い、店員さんに場所を教えてもらって 買ったのだとか。

父も母も、お互いに驚いている。 そして、母は不安がる。「もしかして、私の方がその記憶が飛んだのかしら? でも私には お父さんが言うような記憶は一切ないのよ。それとも お父さんに記憶違い (幻覚?) が出始めてるの? 冷蔵庫の中に新しいお味噌を見つけた時に、お父さんに『タニタのお味噌買ってきたの?』と聞いたら、お父さんは『うん。買ってみたよ』と答えたと思うんだけど、それも自信がなくなってきちゃった。どちらにしても、これから先のことを思うと、なんだか怖い」。

 

う~ん。 私も不安になる。 真相が分からないだけに、余計に悩む。
施設でお世話になっている祖母と義父の顔が 脳裏に浮かぶ。そして、この二人の隣に新たに両親の顔が並ぶ。 

母の話を聞きながら そんな状態になっていたら、不意に母が言った。「ああ、話したら すっきりした。ま、なるようにしかならないよね。もう少し様子をみてから考えることにする」。いつもの元気な母に戻っている! 母は更に続ける。「ところで 夕暮れ、あなたも気を付けなさいよ。夕暮れは小さい頃から  もう既に 忘れっぽくて、うっかりしてたんだからね」。

 

えー、話、こっちに来ます? 「うん。気を付けるね。ありがと」と言って電話を終了したけれど、私の方が心配されてます? なんか変じゃないですか?  知らんけど。

 

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