謎の人に出会って 白昼夢を見る

銀行へ行った。ウィルス感染予防対策として、椅子は 窓口に平行に 縦長に並べられ、隣り合って座れないように 一つおきに紙が貼ってある。

私の窓口の順番は 8 人待ち。長い。仕事に戻らねばならない時間に間に合うだろうかといささか心配しながら待っていると、あら?? 夫の声がする。

 

声のする方を見ると、ひょろりと背の高い男性が 窓口の人に何やら尋ねている模様。後ろ姿で 顔は見えない。公の場なので本人は抑えて話しているつもりでも よく通る声が夫と同じだ。髪型は違うけれど、頭に手をやって くしゃくしゃとするとこんな感じになるなぁ、と思いながら眺める。髪の長さは同じね。

彼が身につけているのはカジュアルウェア。今までになく暑い日になったとはいえ、早々と初夏の装い。でも、夫はこんな鮮やかな色と柄の洋服は持っていないはず。

なんで~? 平日の昼間よ。いつものスーツとネクタイはどうした?!

 

失礼とは思ったけれど、気になって耳を澄まして会話 (声) を聞く。銀行の人に  自分の相談したい内容を伝え、どの窓口の順番待ちをすればいいのか・・・などと質問しているようだ。マスク越しとはいえ、聞けば聞くほど 夫にそっくりな声(そうだ、遥か昔、私はこの声に くらくらときたのだった・・と思い出す)。 ゆっくりとした話し方も同じ。

なんで~? 

話の内容が更に気になる。投資関連? 知らんけど。

その人に近付いて 顔を覗き込むわけにもいかない。謎が謎を呼ぶ。

 小説や映画で、別の顔を持ち 巧みに二重生活をしている人の話があった。まさか、夫が・・・。事実は小説よりも奇なりと いうけれど、こんな現実ってあり?

 

後で 夫のスマホに電話して尋ねてみよう。

夫は言うかもしれない。「あっ、見つかっちゃった? その内に言おうと思っていたんだけど、投資で大儲けしちゃってね、これ一本で食べていく決心をして 仕事辞めたんだ。ずっと順調だから、君にも毎月お小遣いを100万円ずつくらいは あげられると思うよ」

う~む。ハイリスク・ハイリターンは、小心者揃いの我が家には 合いそうにないけどねぇそれに、利益を得 続けようとすると、世界情勢・政治・経済に至るまで、ものすごい量の勉強が必要よね? 心身ともにストレスも半端なさそうよ。

でも、毎月100万円のお小遣いねぇ。捨てがたい魅力もある。悪くないかも・・・。う~む。

 

そんなことを考えていたら、窓口で自分の(順番待ちの)番号を呼ばれ、妄想は途切れた。こういうのを白昼夢というのかしら? 

小遣い100万円はきっぱりと諦めて、私は 明日もコツコツと働くことだろう(たぶん)

 

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市井の片隅の ささやかな歴史

先日の雨と風で この辺りの桜は ほぼ散ってしまった。桜便りを まだか まだかと待ち焦がれた日々が ほんの少し前のような気もするのに、桜を楽しめる時期のなんと短いこと。

 

母の実家の庭に 桜の樹が二本あった。私の母が子どもの頃に 祖母が小さな苗木を植えたものらしい。時の流れと共に 苗木はすくすくと育ち、母の背丈を追い越していったとのこと。私が物心ついた頃には 2階の窓に届くほど見事に枝を広げていた。

桜の咲く時期になると、皆で写真を撮るのが習慣であった。古いアルバムを開くと、幼くあどけない母・若い祖母・私は写真でしか顔を知らない若い祖父もいる。別のページには、入学式らしい中学・高校の制服に身を包んだ笑顔の母もいる。(えっ、この頃の母って、小焼けと同じくらいの年齢? なんだか不思議 )。それから更に年月を重ね、母と結婚した父が加わり、赤ん坊の私も加わった。

私達は 父の転勤で遠方に移り住んだこともあったけれど、桜の咲く時期になると祖母宅を訪れ 写真を撮った。我が家の春の風物詩。 アルバムの中の誰もが笑顔だ。

 

けれども、「 2 本の桜の樹が あまりに大きくなり過ぎて、個人宅の庭ではいろいろ差し障りが出始めたので、専門家に頼んで切ってもらったのよ」と聞いた時には 驚きもし 寂しくもあった。「何気なく植えた苗木だったのに、こんなことになって可哀相なことをしたね。長い間、皆を楽しませ 見守ってくれてありがとう」と祖母は 悲しそうに 申し訳なさそうに樹に話しかけたと聞く。

 

その後、私は結婚し 娘(小焼け)を授かった時に思った。『祖父母のモノクロ写真の時代から、桜と共に 家族写真を撮ってきたのだから、これから生まれてくる子 ( 小焼けにはまだ名前がない )も一緒に 撮り続けたい』

車で少し走った所に 桜の名所がある。川を挟んだ両側には大きく立派な桜の並木が続き、川には 車両通行用とは別の 小さな橋が幾つか架かっている。これらの小さな橋は歩行者専用で、川にせり出した形の場所もある。ここで撮影すると 桜の花々が人物のすぐ傍に写り込み、背景も満開の桜・桜・桜・・・となる。私はインスタはしていないけれど、これぞ『映 (ば) える』というのだろう。

 

家族 (親戚) は 私の提案に賛同し、毎年 桜便りが届くと皆で集まり 写真を撮ることを再開した。16 年前の春、満開の桜のもとで 口々に 私のお腹の中にいる小焼けに話しかけた。「来年は一緒に この綺麗な桜を見ようね。早く生まれておいで」。 初めての曾孫を迎えることになる 私の祖母は一段と嬉しそうに言った。「来年から 親子 4 世代 のお花見になるねぇ」

翌年のアルバムには、小焼けの乗ったベビーカーを、(曾)祖母が幸せそうに押している写真がある。 更に時が流れ、(曾) 祖母が施設にお世話になり始めても、外出許可を貰って花見は続いた。そして今度は、車椅子に乗った曾祖母を 曾孫の小焼けが押している写真に変わった。

 

(曾) 祖母が遠出をすることが困難になると、花見の場所を (曾) 祖母がお世話になっている施設に移した。広々とした敷地内に、建物を取り囲むように散歩道があり、桜の樹がたくさんあるのも嬉しかった。

「大正生まれから 平成生まれまでの  4 世代のお花見ね」と私達は 相変わらず口にし、青空を背景にした 美しい桜を眺めながら、ささやかな幸せをかみしめた。

その時の様子がこれです ↓  

yugure-suifuyou.hatenablog.com

 

 昨年の春はコロナ禍で、 (曾) 祖母に面会すらできなかったけれど、(曾) 祖母は リクライニング車椅子に乗って 施設の庭の桜を見ることができた と聞いたときには、職員さんのお心遣いに感謝し、とても嬉しかった。「コロナがおさまれば、またみんなで一緒に お花見をしようね」と希望を繋いでいたけれど、(曾) 祖母は 旅立ってしまった・・・。

 

母からの LINE が届く。「お父さんと二人で あの川沿いの桜並木に行って写真を撮ってきたのよ」。 母は 15年間 続いた 4 世代揃っての 桜と一緒の写真撮影が 祖母の旅立ちによって幕を閉じてしまった・・・と改めて 実感し 寂しく感じたのではないだろうか。

「将来いつの日にか、小焼けが結婚して子どもが生まれるかもしれないし、そうすれば また親子 4 世代のお花見が実現するよ。お父さんもお母さんも 元気で長生きしてね」と返信をする。そして、来年こそはコロナ禍が収束して、あの川沿いの桜の名所で 揃って写真を撮れるようにと願う。姿は見えなくても 祖母はきっと傍にいてくれるはず。

 

歴史の教科書には決して載ることはないけれど、市井の片隅に暮らす平凡な我が家にも、ささやかな歴史がある。

 

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うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ

帰宅してみると、リビングから「うっせぇ」という言葉と、床を踏みならすような物音がする。 娘(小焼け)は中学の卒業式が済んだ後、高校の入学式までは自由を満喫している。入学後に始まる電車通学に備えて、自宅から駅までの距離や乗っている時間・降りてから学校までの時間を計ったり、電車の混み具合などを体験する為に、今日は友達と一緒に実際に高校まで行ってみると言っていたはず。その後は ちょっと遊んで、帰宅してからはいつものように花壇の手入れをし、夕食を作るとも言っていた。 

それなのに、この怒鳴り声と物音は? 小焼けは 元々のんびり屋で、声を荒げて物を言ったり、荒々しい態度をとるということもなかったのに、今日は何か気に入らないことでもあったの? それとも、普段は我慢をしていて、一人でいる時に、こうして発散してバランスをとっているのかしら? もしそうだとすると青天の霹靂。そんなこと想像したこともなかった・・・と不安になる。

 そんな不安はひとまず置いて「ただいま!」と元気にリビングのドアを開ける。すると「あ、おかえり~。ご飯、できてるよ」といつも見慣れた くったくのない笑顔で迎えてくれる。そして付け加える。「ねぇ、お母さん、これ、だいぶ踊れるようになった。見て見て」

 

小焼けがネットで開いていたのは、あの『うっせぇわ』だった( なんと、YouTubeで 5ヶ月間で 1 億回以上 再生されたらしい)。Adoさんの歌にダンスが加わって、その振りを真似して踊っていたのだという。「いつの間に覚えたの? 小焼けのダンスも音楽によく合っていて上手ねぇ」と言うと、「本家は まだまだ、こんなもんじゃないよ。すっごいんだから。1 音に1 振り付いている感じ。私はそこまでできないから、振りを飛ばしながら拍子の頭の部分を合わせてるだけ」と答える。ほぉ~、どれどれ。

小焼けの踊っていたのはこれです ↓ 


www.youtube.com

  凄いはずだわ。振り付けは あの登美丘高校バブリーダンスの akane さん。公開されて 3 週間で既に120 万回の視聴回数。ダンサーもマスクをつけたままで、これほどのキレッキレのダンスができるとはお見事。感嘆して見入る。

 

「うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ !」との叫びを聞いて「そうだ!そうだ!」と同調するよりは、10 代のエネルギーに圧倒されて たじたじになる方が強い。・・・ということは、私はあちら側ではなく、こちら側にいて「うっせぇわ」と言われる側なのか・・・。

「うっせぇ」と言われると、対話の余地もなく拒絶される感もある。けれど、世の中にはいくら努力しても分かり合えない人達って確かにいるよね。理不尽なことも多すぎる。だからこそ、面と向かっては言えなくて、せめて心の中で「うっせぇわ!」と叫ぶしかないこともある。それは高校生のみならず、おとなとて同じかも。 

 

心の中があちら側とこちら側を行ったり来たりする。ふと気になって小焼けに尋ねる。「反抗期まだなの? (遅れてない?)  うっせぇわ!と叫びたくなることはないの?」 小焼けはのんびり応える。「う~ん。今のとこないねぇ。言いたいことは言うし、したいこともしてるし」

 

そういえば、小焼けの中学の部活の顧問の先生(女性)は熱血であった。その指導力は群を抜き、この先生がいらっしゃる学校は必ず全国大会でトップの成績を収めると定評もあった。小焼けの学校でも噂に違わず迫力があった。厳しかったけれど、全国大会を目標に皆で励まし合って頑張ってきたのだという。

 時には、先生の怒りが爆発し涙にくれる生徒も多かったらしい。「そんな時はどうしたの?」と尋ねると「生徒同士で話し合って、やはり先生の方が間違っていると思ったら、皆で先生のとこに言いに行ったよ。『技術が足りないのは努力します。でも、さっきのは、先生が感情にまかせて言われたことのように思えます。だから私達は納得できません』って」。 えー! そんなことを言いに行ったの? はらはらする。

「で、先生はどうされたの?」と更に尋ねると、「あなたたち、何言ってんのよ」と言われながらも、ちょっと冷静さを取り戻されて「じゃあ、あなたたちの思うようにしてみなさい」と言われたとのこと。

 

卒業までにこういうことが幾度かあったらしい。「へぇ~、じゃあ、この歌にあるように『うっせぇ!うっせぇ!』と叫ぶまでには至らなかったのね?」と言うと、小焼けは「陰でいくら叫んでも、相手には伝わらないもん」と応える。

その熱血先生は今年 3 月末で退職なさった。離任式には卒業生もたくさん訪れたとのこと。(コロナ禍を案じて 卒業生は来てはいけないとのことだったらしいけれど)。時には厳しすぎる思いがしても、先生の熱意と愛情が底にあるのを感じていたからこそだろう。 

思えば、小焼け達は 生徒の意見に耳を傾けてくださる顧問の先生に恵まれていたのね。世の中にはいくら話し合いたくても受け付けてもくれない人の方が多いもの。だからこそ、この曲がこれほどの共感を呼ぶのかもしれない。「うっせぇわ!」と叫びながら頑張っている人達のことを思う。

 

今はまだ、「話し合えば、ちゃんと伝わる」と思っている小焼けも、世の中にはそうもいかないことが多すぎると感じる時が いつか訪れるのだろうか・・・と思うと、ちと切なくもある。

 

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小悪魔になれなかった小悪党?

車を運転中、サイドミラーとルームミラーに、後続車の赤色灯がせわしなく点滅 (回転) しているのが映った。「あっ、 パトカー! いつの間に?」と思い、自分の車の速度計とシートベルトを確認する。大丈夫よね? その他に私 悪いことした? 一瞬 焦る。

赤色灯の点滅 (回転) に加え、サイレンも鳴っていれば緊急事態で急がれているのだろうから、こちらもすぐに道を譲らなければ・・・と思って窓を少し開けてみたけれど、サイレンは聞こえなかった。防犯パトロール中なのかな? それとも、私に何かご用でも?

車間距離はあるものの、背後にぴたりと付いて来られると、やたら法定速度を意識して肩が凝る(って、普段はどうなのよ?とツッコまないで・・・)。

 

TV番組『警察24時』を思い出す。防犯パトロール中に、不審な動き (蛇行など) をしている車を発見すると、「あの車 怪しいですね。止めますか?」とパトカー内の警察官二人が会話をした後、マイクで呼びかけ停車させる。そして車の中を探すと白い粉が出てきたりする。プロの洞察力って凄いなぁ・・・と驚いた記憶がよみがえる。

私の車の中に白い粉は? ある! うそっ。ううん、本当にある。 動揺して車が蛇行しないよう気を付けて走る。もし呼び止められたら 観念して、おずおずと 白い粉を差し出しながら 言おう。「これ、さっきスーパーで買った片栗粉です。本当に片栗粉なんです」。

しばらくして、後続のパトカーは左折し 姿が見えなくなった。パトカーの中のお二人は、前の車の運転手(私)がこんなことを考えながら運転しているなんて思いもされなかったことだろう。  

そもそもパトカー(警察官の方達)は善良な市民を守ってくださるのだから 姿が見えると安心するはずなのに、咄嗟に「えっ!私、捕まる?」と犯罪者側に立ってしまうのは私だけ? 警察官の皆様、日々お仕事お疲れさまです。ありがとうございます。

 

運転免許を取得して20年以上経つ。その間にどれだけ捕まった   いえ、言葉を間違えました、ご注意をいただいた かしら?と考える。

☆ 免許取得したばかりの頃、バイパスを高速道路と間違えて速度オーバーで違反切符。

☆ 夫の転勤に伴い 引っ越した数日後、一時停止表示を見落として違反切符。

☆ 同じく慣れない土地で、時間帯によっては「バス・タクシー専用レーン」になるということを知らずに入って違反切符。

☆ 小焼けが幼児の頃、後部座席から 後続のパトカーに にこにこしながら手を振ったらしく 呼び止められ、「お嬢ちゃんの体 全体が真後ろを向いているということは、チャイルドシートはどうなってますか?」と問われた。お~い、小焼けちゃん、いったい何をどうしたら そういう体勢になるの?  自分の命がかかっているのよぉ。

 

ああ、思い出そうとすると、まだまだ出てきそうで情けない。こういう人間を何て呼ぶの?  悪党? え~、なんか怖いし 悲しい。言い訳になるけれど、上記のことは どれもこれも悪意はなかった。故意ではなかった。 せめて「小」をつけて小悪党にしようかな。 う~ん、「小悪党」かぁ・・・、できれば、コケティッシュな「小悪魔」の方が良かったな、とも思うけれど、私には似合わないなぁ。

 

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15の春というけれど

娘 (小焼け) の友達、Mちゃん、Kちゃん、T ちゃんが昨日から泊まりがけで遊びに来ていた。夕食は小焼けを入れて4人で作るのだと言う。「おばちゃん達の分も たっぷり作るからね」との言葉が嬉しい。みんな幼稚園からの仲良し。Mちゃんは幼稚園のお迎え(お母さんがお仕事なので、お迎えはおばあちゃん)が少し遅くなると、不安そうに私の手をしっかり握っていたのに、みんな大きくなったねぇ・・・としみじみ。

 

予め 4 人でメニューを相談したらしく、食材も準備して来て 作業も実に手際が良い。きゃきゃと明るい声で会話しながら、できあがったのは、カレー、アボカドとエビと生ハムのサラダ、フルーツヨーグルト、更におみやげのスイーツ付き。美味しかった。ごちそうさま。

 

夕食の前後は、リビングのテーブルで 4 人で勉強をしていた。課題がたくさん出ていて、入学式の時に持参しなくてはならないのだそうだ。授業の進みがとても速いとは聞いていた。先輩のお母さんが、「入学後、初めての授業に備えて 息子が 10 ページくらい予習していったのに、先生が『この辺りは簡単なので、さっと流して、11 ページからします』と言われたそうで、まさに『マーフィーの法則』ね」と笑いながら話されたことがあった。そっか、合格したらしたで、その後も大変なのねぇ。 

「これ、むずい」「う~ん」「こうやって解いてみたら、どうかなぁ?」など という会話の間に「でも、私達もう合格したんだし・・・」「だよねっ」という言葉が合の手のように入る。同じように勉強をしていても、中学生の時は「入試に受かるだろうか?」という不安と共にいたのだろう。その不安から解放されて、問題を解くこと自体を楽しんでいるのが伝わってくる。

 

寝る前にスマホで、洋服やスニーカーを検索し、4人で「あ~、これ、可愛い!」「ほんとだぁ」などとも言っている。私なんぞは「スニーカーは運動しやすかったら それで良いんじゃない? 色はだいたい白だし・・・」と思うけれど、機能性に加え、 底の厚味やデザインの微妙な違いがあるらしい。 ほ~。そんなものかしらねぇ。昭和生まれは付いていけない。

 

翌日(日曜日)、朝食を済ませると、T ちゃんが持参したヘアーアイロンとコテを取り出す。ヘアーアイロンで整えた後、コテで 髪の毛の先の方に くるんとカールをつけるのだそうだ。ほ~。おしゃれ。「貸して」「私もしてみたい」と他の3人が言い、同じようにチャレンジしている。朝からひとしきり賑やかな時間を過ごした後、他の友達と待ち合わせしているとのことで、4 人で元気に出かけて行った。

 

帰宅した小焼けによると、男女合計 12 人が集まり、運動公園の中を走り回り(鬼ごっこ?!)、その後は桜の名所に散策に出かけ、更には ボウリングに行き・・・という流れだったらしい。コロナ禍と受験で 我慢に我慢を重ねていたのが心身共に解き放たれたようだ。 (「もっと はじけたかったけど、これでも気を遣って、カラオケには行かなかったし、ちゃんとマスクをして、会話も向かい合っては しないようにしたよ」とのこと)

桜を眺めながら、K ちゃんが突然宣言したらしい。「私ねぇ、高校に入ったら、きらきら女子路線に変更して、彼を作ろうと思うんだ」。それを聞いた男子が「無理じゃね?! みんな幼稚園から一緒で、K ちゃんの姐御キャラは知れ渡ってるし」と突っ込みを入れると 「あんた達を『彼』にしようなんて思ってないよ~。他の中学校から来た人とか、上級生の人 限定」と K ちゃんも負けずに応える。

すると、「自分の言いたいことや したいことを我慢して、別のキャラになって彼を作っても、楽しくないし疲れが溜まるよ」と誰かが言い、結局 K ちゃんは今まで通りのキャラで行くことにしたらしい。(みんなから頼りにされる頑張り屋さん & 心の しなやかさを兼ね備えた K ちゃんが、私も大好きよ)

 

一緒に遊んだ友達の中には、入試で実力が発揮できなくて 涙を呑んだ男の子もいたとのこと(結果を聞いて、みんな驚いた)。けれど、今までと何も変わらず、元気に会話していて「さすが S 君。格好いい」。合格発表の場で、自分の受験番号が無かった時の彼の気持ちを思うと 切ないけれど、S君は どこにいても伸びやかに彼の良さを発揮できる。 

そういえば、合格発表のニュースを  録画した中に、自分の番号を見つけて友達と抱き合って喜ぶ人達の間で、ボードをじっと見つめた後に すっとその場を離れた人が映っていた。大抵は T V 局側で編集してカットするのだろうけれど、人混みの中 ほんの短い時間の映り込みだったので、そのまま放送されてしまったのだろうか・・・。

 

『 15 歳の春』は 喜びも 切なさも 運んでくる。

「もし私がコロナで高校受験ができなくなった時は、また来年受けるしかないねぇ」と小焼けがのんびり言ったけれど、後で聞くと、私の祖母が曾孫の小焼けに話したことがあったらしい。「小焼けちゃん、ひいおばあちゃんの歳まで生きるとするとね、人生の1 年って ほんの 90 分の 1 にしか すぎないんだから、どうってことないのよ。『あれ? こっちで良かったのかなぁ?』って思うことがあったら、別の道に進んでみればいいんだからね」。

祖母の症状を考えると、この話をしたのは、小焼けが幼稚園児か小学低学年の頃だろう。まだ理解できるかどうかわからない年齢の曾孫に、祖母は折りにふれ こうして語りかけ、また その言葉が 幼い小焼けの心に残っていたのかも知れない と思うと嬉しい。

 

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『受験生のいる風景』は 最後までドタバタと

桜便りが届き始め 心和らぐこの時期が 私は一番好きなのですが、はぁ~、今年は特に待ち遠しかった・・・。我が家の『受験生のいる生活』が ようやく幕を閉じました。 

コロナ禍に振り回された 1 年で、ある時は「わっ、コロナ感染?」と慌てふためいたりもしました。それでも、体調も崩さずに受験できたことに感謝しつつ、合格発表に至るまでの あれこれを書き留めておこうと思います。( 将来「あんな日々もあったなぁ・・・」と笑いながら思い出せるよう、備忘録です)

 

★ 第一志望校の受験票を貰ってすぐ、「おじいちゃんと おばあちゃんに見せよう」と娘 ( 小焼け ) が言って、ビデオ通話を開始する。画面の向こう側でおばあちゃん (私の母 )が「あらぁ、縁起の良い番号ねぇ。答案用紙に間違って書かないように、語呂合わせで覚える?」と言い、「こういうのはどう?」と提案を始める。その横でおじいちゃん(私の父)が「その語呂合わせだと、間に  うっかり 1 を入れてしまいそうだよ。これはどうかな?」と別の語呂合わせを言う。今度は おばあちゃんが「それだと間に 4 を入れてしまいそうよ」と心配する。  

二人の やりとりを聞いていた小焼けが のんびりと言う。「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとうね。でも、その語呂合わせを覚える方が大変そうよ。これくらいの受験番号なら、普通に数字で覚えられるよ。それにねぇ、入試の時は受験票を机の上に置いて 確認しながら書くから 心配しなくても大丈夫だからね」。

 

★ 塾に行くこともなく過ごしてきた小焼けが、「 K ちゃんの行っている塾で、冬休みから『入試直前講座』っていうのが始まるらしいから、行ってみようかな?」と言い出した。( おっ、ようやくその気になりましたか? めでたい ← 私の心の声 ) その塾は自分の授業のない日でも 自習室で勉強できるとのことで、冬休みから受験直前まで 毎日通うようになった。

 塾の近くに 小さな公園がある。小焼けの話によると、ある日、その公園のベンチに高校生カップルが仲良さそうな様子で座っていた。邪魔をしないように気配を消して通り過ぎようとしたら、突然「小焼けちゃん!」と呼ばれたとのこと。振り返って見ると 部活の先輩で、小焼けが第一志望にしている高校に行っている Y さんだった。「ここの塾に行ってるの? 頑張ってね」と励まされ、嬉しかったらしい。 

 

それから数週間後、入試の三日前。小焼けがいつものように 自習室で最後の追い込み勉強をしていると、先生が「小焼けちゃんに会いたいという高校生が来ているよ」と呼びに来られたとのこと。急いで 講師室に行くと、先日公園で出会った Y 先輩が「入試直前で緊張してるんじゃないかと思って・・」と綺麗にラッピングされた箱を手渡してくれた。

 先輩が帰った後、先生方が口々に「眩しいほど可愛い女子高生が来た」とか「あの子は何の用があって来たの?」とか「小焼けちゃんに会いに来たんだって?」とか言われ、ひとしきり 講師室が賑わったらしい。(私も会ったことがあるけれど、Y さんは確かに 眩しいほど可愛い。講師室が ざわざわするのも分かる) 

Y 先輩に貰った箱を 家に帰って 小焼けが開ける ( 勿論、私も一緒に覗き込む )。わぁ、手作りの おしゃれなクッキーと ガトーショコラが センスよく並べられている。添えられたメッセージカードに「小焼けちゃん、絶対合格して また一緒に部活しようね。待ってるよ!」とあった。Yさんの優しい心遣いが 心に染みる。

 

★入試当日。さすがに緊張しているのではないかと心配していたら、小焼けが 試験会場に持って行く物の再確認をしながら 鼻歌を歌っている。『晴ぁ~れた空~♪ そぉ~よぐ風~♪』 なんと! それは ひいおばあちゃんが よく口ずさんでいた歌だ。小さい頃から耳にしていて、覚えていたのね。 私と目が合うと「良い天気になりそうだねぇ」と のんびりした口調で言う。朝食もいつも通り もりもり食べて入試へと出かけて行った。 

 

受験終了して 帰宅後、録画予約しておいた入試解説番組を見ながら自己採点している。「あれぇ、今までの定期テスト・模試・習熟度テストの中で、2番目の高得点なんだけど」。 え~、まじっすかぁ? もしかして『3問とも正解ならば、2点』とかいう所を、1問ずつに丸を付けて合計6点で計算してないかぃ? と言いたくなる言葉を、私はぐっと飲み込む。せっかく受験が終わったのだから、結果発表まで気楽に待っていた方がいいものねぇ。

 

★ 合格発表の日。友達と一緒に見に行こうと約束していたけれど、Kちゃんが「思ったよりできなかった。私、駄目かもしれない。泣きそうだから、お母さんと一緒にそっと見に行くね」と言い出し、T ちゃんも「私も、いつもなら できたはずの問題を 幾つか間違った」と悲しそうに言うので、別々に見に行くことになったらしい。 

 

私は仕事なので、「結果を LINE で知らせてね」と言って出勤した。ところが、合格発表の時間を過ぎても LINE が届かない。「あらぁ、あんなに高得点だって言っていたのに、やはり、自己採点の計算間違い?」と心配になる。それから更に時間が経っても一向に LINE 通知がない。

 

 小焼けなら、第一志望が不合格でも 第二志望の高校で楽しく過ごしていくだろう。「将来 就きたい仕事 ( 夢 )」への道は 少し遠回りになるように思えるかもしれないけれど、遠回りに見えて、実はまたそこで新たな発見もあるだろう......などと考えたりもする。それでも、塾の『入試直前講座』に行き始める前の ほぼ3年間はひとりで頑張ってきたのだから、願わくば第一志望の高校で、エール を届けて ( 以前のブログに書いた、色紙の寄せ書きや  Y 先輩の手作りお菓子など)待っていてくれる 中学の先輩達と また部活が一緒にできれば嬉しいだろうなぁ・・・とも思う。 

 

待ちきれずに、仕事の昼休み時間に電話をする。「どうだった?」と尋ねると、「それがねぇ、寝坊しちゃって、まだ見に行ってないよ」。 はぁ~? なんですとぉ~? この大事な日に目が覚めなかった? 

今まで小学・中学と一度も遅刻をしたことがないのに、入試も卒業式も済んで ひと安心して爆睡したのかしら? 

 

小焼けは更に続ける。「お昼ご飯を食べてから発表を見に行こうと思って、テレビ をつけたらねぇ、合格発表のニュースが流れていたよ。で、『喜びの受験生です』とか リポーターが言って、合格者の受験番号が貼られたボードの前で 写真を撮ってる人達が映ってた。それでね、その人達の後ろに 私の受験番号が ちらっと見えたよ。合格してるみたい。ご飯食べたら ちゃんと見てくる」

え~、思いもかけない展開。その後1時間ほどして LINE に 小焼けの受験番号の写った写真が送られて来た。あら、ホントに合格してる。おめでとう。(それにしても、 ニュース画面の片隅に 偶然自分の番号を見つけて 合格を知る人って、全国にどのくらい いるのだろう?と母は思った)

 

★ ブログや twitter でエールを送ってくださった皆様、ありがとうございました。小焼けは 皆様からいただいた言葉をちゃんと胸にしまって試験に臨んだようです。

 

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別れもあれば、出会いもあって

柔らかな風や花々・木々の芽吹きに 春の気配を感じては 心弾む今日この頃。春本番が待ち遠しい。

と同時に、この時期は 卒業、転勤、転職、転校、引越し・・・等で、慣れ親しんだ場所や人との別れが、全国のあちらこちらで展開される。

私にも、父の仕事の関係で 転校した子ども時代があった。移り住んだ幾つかの家のひとつは高台にあった。 お稽古事に出かけたり 友達と遊んだ後に 家に帰る道すがら、坂の途中で 夕焼け空や 辺りの風景を眺めるのが好きだった。家の近くまで来ると、夕餉の支度をする美味しそうな匂いが漂っていた。

あの家には 今 どんな家族が暮らしているのだろう? 夕暮れ時には 同じように美味しそうな匂いが立ちこめているだろうか? 

 

さて、時は現在に戻って・・・。先日 帰宅途中の見慣れた景色の中、遥か前方にふっと違和感を覚える場所があった。「何か違う感じがする」と思い、車が近付くに連れ 注意して見てみると、 明るい通りに店舗が並んでいたはずだったのに、一箇所だけ 人の気配のしない真っ暗な建物に変わっていたのだ。「あら?ここは 2 月10 日のブログに書いたあのコンビニがあった場所?」と思ったけれど、車のスピードを落とすのも危ないので、そのまま通り過ぎた。

 

翌日、同じ道を通る時に 意識して見ると、かなり高さのある 太い円柱に取り付けられていた看板が外されていた。ということは、オーナーが変わったという訳ではなくて 閉店なのだろう。

息子さんに引き継がれる前の オーナーだった あの お話好きな高齢の旦那様と、物静かな奥様の姿が目に浮かぶ。私は日々の買い物はスーパーで済ませるので、コンビニに行くことはそんなに多くはなかったけれど、たまに訪れてお二人に会えると 心和んだことを思い出して 寂しくなる。

 

それから更に数日後、同僚が「職場の近くにコンビニができたの知ってる?」と言った。通勤に使う道路沿いではないので、私は知らなかった。あの閉店したコンビニが こちらに移転したのかと思ったけれど (それなら嬉しい )、どうも違うようだった。同僚の話によると、オーナーさんらしき人は『転職してがんばるぞ!』という気合いの感じられる年配の男性で、にこやかな奥様らしき人も店内にいらしたようだ。訪れている人達と談笑されている様子から、とても友達の多いご夫婦のように見えたとのこと。産地直送かと思うような新鮮な野菜も並んでいて『もしかして、この野菜は お友達が作っているの?』と同僚は驚いたらしい。 ( ← あくまで、同僚の推測の混じった話です。コンビニのシステムはよく分かりません)

 

私のこの性格・・・ 仕事帰りに早速立ち寄らずにはいられない。お店の入り口付近は『職種が違うお店のオープンですか?』と思えるほどたくさんの花飾りで溢れ、商品名の入った旗も幾つか風に揺れている。一歩足を踏み入れるや いなや「いらっしゃいませ!」という明るい声に迎えられる。新しいお店なので、床も棚なども当然ピカピカだし、店内もとても明るい。省エネで照明が暗くなっているコンビニを見慣れている目には眩しい。同僚の言っていた野菜は既に売り切れていて残念だ。本部?からの応援もあるらしく、カラフルな法被姿の人達から「カードはもうお持ちですか? 今ならプレゼントがありますよ」などと勧められる。皆さん笑顔で、明るく大きな声だ。スタートって活気があるなぁ・・と思う。

そして、少し前に閉店して、真っ暗な建物になってしまったあのコンビニに思いを馳せる。 

コンビニの閉店と開店が たまたま重なったのだろうけれど、この時期の別れと出会いを改めて感じたのだった。

 

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